この記事では、弁護士が転職活動で提出する職務経歴書の書き方を、守秘義務への対応方法・採用担当者(現役弁護士)が実際に確認するポイント・法律事務所とインハウス別の例文を交えて解説します。書類選考の通過率を高めるチェックリストも掲載しています。
弁護士の職務経歴書が他の職種と違う理由
弁護士が職務経歴書を書くうえで最初に直面するのが、「守秘義務の壁」です。他の職種であれば「○○社のプロジェクトで売上を20%改善した」と実績を数字で示せますが、弁護士の場合はクライアント名も事件の内容も開示できないケースがほとんどです。
しかし、だからといって業務内容欄を空欄に近い状態にしてしまうと、採用担当者は「何をやっていたのかわからない」という評価を下します。この矛盾をどう解決するかが、弁護士の職務経歴書における最大のポイントです。
守秘義務という開示の制約
弁護士法第23条は、弁護士に対して職務上知り得た秘密を守る義務を課しています。この義務は退職後も継続するため、以前に担当した案件の情報を職務経歴書に記載する際は慎重な判断が必要です。守秘義務に抵触する可能性がある情報は次のとおりです。
- クライアントの社名・氏名
- 事件・取引の具体的な名称や当事者
- 案件の個別の経緯や結論(判決内容など)
- 交渉上の戦略や相手方の情報
逆に言えば、クライアントを特定できない形で業務の種別・規模感・担当した役割を記載することは守秘義務に抵触しません。具体的な書き方は後述するセクションで詳しく解説します。
採用担当者(現役弁護士)が職務経歴書で確認していること
法律事務所の採用担当は多くの場合、採用パートナーや先輩弁護士が書類を読みます。彼らが職務経歴書で確認しているのは「どんな案件をやってきたか」だけではありません。
採用担当者はここを見ている
- 取扱分野の深さ・広さ:特定分野に強みがあるか、他の弁護士との補完性があるか
- 案件の規模感:単純な件数より、大規模な案件に関与した経験があるか
- 修習期・司法試験合格年:弁護士コミュニティでは経験年数の基準になる
- 英語力・外国語スキル:渉外案件や外資系インハウスでは必須の確認事項
- 事務所外活動:執筆・講演・外部委員の経験があれば専門性の証明になる
採用担当者が書類を読む時間は1通あたり平均2〜3分程度です。修習期・取扱分野・英語力の3点を冒頭の職務要約で伝えるだけで、残りの詳細部分を「読む価値がある」と判断してもらえます。
弁護士の職務経歴書 5つの基本セクションと書き方
弁護士の職務経歴書は以下の5つのセクションで構成するのが基本です。それぞれの書き方のポイントを解説します。
| セクション | 内容 | 目安文量 |
|---|---|---|
| 職務要約 | 経歴・強みの3〜5行サマリー | 150〜200文字 |
| 職務経歴 | 在籍事務所・在籍期間・事務所概要 | 箇条書き形式 |
| 業務内容 | 取扱分野・案件類型・担当役割 | 最重要・詳細に記載 |
| 資格・スキル | 司法試験合格年・修習期・語学など | 箇条書き形式 |
| 自己PR | 強み・志向・応募先でのビジョン | 200〜300文字 |
職務要約(サマリー)
職務要約は採用担当者が最初に目を通す部分であり、ここで「読み続けるかどうか」を判断されます。弁護士としての修習期・取扱分野・主な強みを3〜5行で簡潔にまとめることが重要です。
良い例文
第76期司法修習修了(202X年弁護士登録)。企業法務系法律事務所にて5年間、M&A・会社法・コーポレートガバナンスを中心に取り扱う。英文契約のレビュー・交渉経験あり(TOEIC 880点)。クロスボーダー案件に注力できる環境を求め、転職活動中。
NG例
弁護士として5年間勤務しました。企業法務全般に携わっており、多数の案件を経験しました。「多数」「全般」など曖昧な表現では何をやってきたか伝わらない。修習期の記載もない。
職務経歴(在籍期間・事務所情報)
在籍した法律事務所の情報は、採用担当者が「どんな環境で経験を積んだか」を判断する材料になります。事務所名・所在地・弁護士数・取扱分野・在籍期間をセットで記載します。
記載例
〇〇法律事務所(東京都千代田区) 202X年4月〜現在
弁護士数:30名(パートナー10名・アソシエイト20名)
取扱分野:企業法務・M&A・知的財産・紛争解決
事務所名の公開が問題ない場合はそのまま記載してください。転職先に情報が漏れることを懸念する場合は、「東京都内 企業法務系法律事務所(弁護士30名規模)」のように類型化しても採用担当者には伝わります。
業務内容(取扱分野と案件実績)
業務内容欄が職務経歴書の中で最も重要なセクションです。取扱分野と、守秘義務を守りながらどれだけ具体的に実績を示せるかが書類通過率を大きく左右します。具体的な書き方は次のセクションで詳しく解説します。取扱分野を箇条書きで列挙する基本フォーマットは以下のとおりです。
取扱分野の記載例
- M&A(国内・クロスボーダー):DD対応・SPA交渉・PMI法務支援
- コーポレート・ガバナンス:株主総会対応・取締役会運営サポート・内部統制構築
- 契約法務:英文契約書レビュー・各種商事契約の起草・交渉
- 紛争解決:商事仲裁・民事訴訟における書面準備・期日対応
資格・スキル(修習期の書き方を含む)
弁護士の資格欄で最も重視されるのが司法修習期と弁護士登録年です。弁護士コミュニティではこの数字が「何年目の弁護士か」を示す共通基準として機能します。
資格欄の記載例
- 司法試験合格:202X年(第76期司法修習修了)
- 弁護士登録:202X年4月(○○弁護士会)
- TOEIC Listening & Reading:880点(202X年取得)
修習期の記載を忘れるケースは意外と多いです。採用担当者が確認しやすい場所(資格欄または職務要約)に必ず記載してください。
自己PR
自己PRでは「今後どんな弁護士として何を実現したいか」と「そのために自分が持っているもの」を具体的に結びつける構成が採用担当者に刺さります。応募する事務所・企業の取扱分野に合わせて内容を変えることが前提です。
良い例文
企業法務のジェネラリストとして5年間研鑽を積んできましたが、今後はクロスボーダーM&Aに特化した専門性を高めたいと考えています。現職でも英文SPA交渉に主担当として関与した経験があり、英語でのクライアント対応・相手方弁護士との交渉もこなしてきました。貴所が注力するアジア圏クロスボーダー案件において、即戦力として貢献できると確信しています。
守秘義務を守りながら案件実績を書く方法
守秘義務があっても、実績を「ゼロ」と書く必要はありません。ポイントはクライアントを特定できる情報を除いた上で、できる限り具体的に書くことです。
クライアント名・事件名を明かさずに実績を伝える書き方
クライアントを特定させない形で実績を伝える方法として「案件の類型化」があります。業種・取引類型・当事者の規模感をセットにして記載します。
| 守秘義務に抵触する書き方 | 守秘義務に配慮した書き方 |
|---|---|
| ○○社の△△案件において… | 売上高100億円規模の製造業クライアントのM&A案件において… |
| 〇〇株式会社の社内規程整備に対応 | 東証プライム上場の小売業クライアントのガバナンス強化案件に関与 |
| A銀行とB社の紛争解決を担当 | 金融機関と事業会社間の融資契約に関する紛争において一方当事者の代理人として訴訟対応 |
「業種(製造業・金融・IT等)」「規模感(売上規模・上場・非上場)」「担当した役割(主担当・チームの一員)」の3点を組み合わせることで、クライアントを特定させずに具体性を確保できます。
数値で具体性を出す|金額規模・期間・関与者数を活用する
守秘義務の制約がある中でも、数値は強力な武器になります。採用担当者は案件の数より「どの規模感の案件を経験しているか」を知りたがっているためです。
数値化できる情報の例
- 取引金額の規模感:「100億円規模のM&A案件」「数百億円規模のシンジケートローン」
- 案件期間:「18ヵ月にわたるプロジェクト型案件」
- 担当件数・年間処理件数:「年間30〜40件のルーティン案件を並行処理」
- チームにおける役割:「パートナー1名・アソシエイト3名のチームで主担当を務める」
- 外国語対応:「英文契約書のレビュー月平均15〜20件」
「守秘義務があるから何も書けない」と思い込んでいる弁護士ほど、この視点が抜けている傾向があります。クライアント名を出さなくても、案件の規模感・担当役割・処理量を数値化するだけで、職務経歴書の説得力は大きく変わります。
法律事務所志望 vs インハウス志望|書き方の使い分け
法律事務所への転職とインハウス(企業法務)への転職では、同じ経験でもアピールすべき内容が異なります。同じ職務経歴書を全社に送ってしまうことが、書類通過率が下がる最大の原因のひとつです。
法律事務所を志望する場合の職務経歴書例文
法律事務所志望の場合は、専門分野の深さ・案件の質・チーム内での役割の成長を前面に出します。採用担当者は「この人はうちの事務所で何ができるか」を最優先で判断するためです。
法律事務所向け 業務内容の記載例
【取扱分野】M&A・コーポレート・知的財産
【業務詳細】
・企業買収(国内):売手側・買手側双方の代理経験あり。100億円超の案件を主担当アソシエイトとして10件以上関与
・クロスボーダーM&A:東南アジア企業対象の案件に3件関与。英文LOI・SPAの起草・交渉補助を担当
・コーポレートガバナンス:上場会社向けの株主総会対応・役員責任問題対応・社外取締役向けレクチャー実施(年5〜8回)
・英語対応:英語によるクライアントミーティング・相手方交渉の経験多数(TOEIC 880点)
法律事務所向けでは「誰の代理をしたか(売手・買手・被告・原告等)」「どの段階の業務を担当したか(交渉・起草・リサーチ)」「どの程度の裁量で動いたか(パートナーの指示下 vs 主担当)」を明確にすることが重要です。
インハウス(企業法務)を志望する場合の職務経歴書例文
インハウスを志望する場合は、ビジネス感覚・コミュニケーション能力・スピードへの対応力を強調します。企業の採用担当者(法務部長や人事担当者)は必ずしも弁護士ではないため、専門用語を多用せずビジネス側の文脈で伝えることが効果的です。
インハウス向け 業務内容・自己PRの記載例
【業務詳細】
・事業部門からの法律相談対応を日常的に担当(月平均30〜40件)
・新規事業の法的スキーム設計から契約書整備まで一気通貫で対応した経験あり
・コンプライアンス:社内研修の企画・講師役の経験あり(参加者平均50名)
【自己PR(インハウス向け)】
法律事務所で培ったリーガルスキルを、ビジネスの現場に直結させる形で活かしたいと考えています。事業部門が「Noと言わない法律相談窓口」を実現するため、リスクの許容範囲を明確にした上で積極的な意思決定支援ができる法務担当者を目指しています。
インハウス志望の場合、「弁護士登録を維持しながら働く予定か」という点を採用担当者が確認するケースもあります。企業によっては弁護士資格の維持を条件にしている場合があるため、意図がある場合は自己PRや備考欄に記載しておくと丁寧です。
職務経歴書の完成後、自信が持てない場合は職務経歴書の有料添削サービスを使って専門家のフィードバックを受ける方法もあります。

採用担当者が落とす職務経歴書の3つのパターン
弁護士の転職書類でよく見られる「落とされやすいパターン」を3つ紹介します。他の候補者も同じミスをしやすいため、把握しておくだけで差別化になります。
パターン1|守秘義務を過度に気にして業務内容が空欄に近い
守秘義務の対象と範囲を正確に理解していないと、業務内容欄が「企業法務全般を担当しました」の一行で終わってしまいます。
NG例
業務内容:守秘義務があるため詳細は記載できませんが、企業法務全般に携わりました。「守秘義務があるので書けない」という記述は採用担当者に「何もアピールできないのか」と映る。
守秘義務の対象はクライアントを特定させる情報です。業種・取引類型・規模感・担当役割はクライアントが特定されない限り記載できます。
パターン2|修習期・司法試験合格年が記載されていない
一般的な職種の転職では資格欄に「弁護士(〇〇年取得)」と書けば十分ですが、弁護士の転職市場では修習期(第〇〇期)が実質的な経験年数の目安になります。
採用担当者は「第70期台なら10年目前後」「第80期台なら5年目前後」という形で即座に判断します。この情報がないと「何年目の弁護士かわからない」という不全感が生まれ、選考が前に進まないケースがあります。
パターン3|法律事務所でもインハウスでも同じ書類を使い回す
弁護士の転職活動では複数の法律事務所とインハウスに同時並行で応募するケースが珍しくありません。しかし同じ職務経歴書を全社に送ってしまうと、それぞれの採用担当者が「うちに来たい理由」や「うちで活躍できるイメージ」を持ちにくくなります。少なくとも「法律事務所版」と「インハウス版」の2パターンを用意し、業務内容の強調点と自己PRの切り口を変えることを推奨します。
作成した職務経歴書に自信が持てない場合は、職務経歴書の代行・作成サポートサービスを活用する方法もあります。

書類通過率を上げるために提出前に確認したい5項目
職務経歴書を完成させた後、提出前に以下の5項目を確認してください。ひとつでも抜けがあれば、通過率は明らかに下がります。
- 修習期(第〇〇期)と弁護士登録年が資格欄または職務要約に記載されているか
- 業務内容欄にクライアントを特定させない形で規模感・取扱類型・担当役割が書かれているか
- 応募先(法律事務所 or インハウス)に合わせて強調点を変えているか
- 英語力・外国語スキルが取得年とともに記載されているか
- 自己PRが応募先の取扱分野・課題に結びついた内容になっているか
効率的に職務経歴書を作成したい場合は、職務経歴書の自動作成ツールを活用して素材を整えてから手直しする方法が時間効率よく仕上げられます。

まとめ
- 弁護士の職務経歴書では守秘義務の制約があっても、業種・取引類型・規模感・担当役割をセットにすることで具体的な実績として伝えられる
- 採用担当者(現役弁護士)は修習期・専門分野の深さ・英語力を優先的に確認する
- 法律事務所志望とインハウス志望では同じ経験でも強調すべきポイントが異なるため、少なくとも2パターンを用意する
- 数値(金額規模・処理件数・英語対応件数)を活用することで、守秘義務を守りながら説得力のある職務経歴書になる
職務経歴書は転職先の採用担当者に送る最初の「自己紹介状」です。守秘義務の制約を理由に内容を薄くするのではなく、許容範囲の中で最大限に具体的に書くことが書類選考通過への第一歩です。
弁護士の職務経歴書に関するよくある質問
- 弁護士の職務経歴書に修習期は必ず書くべきですか?
-
はい、必ず記載してください。弁護士の転職市場では修習期(第〇〇期)が経験年数の共通基準として使われており、採用担当者が即座にキャリアステージを把握するために必要な情報です。資格欄または職務要約のどちらかに「第〇〇期司法修習修了」と明記してください。
- 守秘義務があるため業務内容に何も書けません。どうすればよいですか?
-
クライアントを特定させなければ、案件の業種・規模感・取扱類型・担当役割を記載しても守秘義務には抵触しません。「売上高100億円規模の製造業クライアントのM&A案件において買収スキームの設計から契約書交渉まで主担当として関与」のように書くことができます。「守秘義務があるため書けない」という記載は採用担当者にネガティブな印象を与えるため避けてください。
- 法律事務所とインハウスに同時応募する場合、職務経歴書は別々に作るべきですか?
-
少なくとも2パターン(法律事務所向け・インハウス向け)を作ることを推奨します。業務内容欄で強調すべき実績と自己PRの切り口が異なるためです。法律事務所向けは専門分野の深さ・案件の質を前面に出し、インハウス向けはビジネス感覚・スピード対応・コミュニケーション能力を強調するよう書き分けてください。

