この記事では、ソーシャルワークや保育・介護の現場で使われる「ファミリーマップ」の書き方を解説します。基本記号の意味から手順・記入例まで、初めて作成する方でも迷わないよう整理しています。
ファミリーマップとは
ファミリーマップは、社会福祉学や心理学のソーシャルワーク実践で用いられるマッピング技法の一つです。夫婦間の関係・親子の情緒的な距離・家族内の力関係など、家族の「関係性の質」を記号と線で視覚化するためのツールです。
「誰と誰が婚姻関係にあるか」という客観的な家族構成ではなく、「誰と誰が仲が良いか、対立しているか」という情緒的なつながりを図で表せるのが最大の特徴です。家族支援・虐待対応・ケアマネジメントなど、家族全体の状況を把握する必要がある場面で広く活用されています。
ジェノグラム・エコマップとの違い
ファミリーマップと混同されやすいツールとして、ジェノグラム(家族図)とエコマップ(生態地図)があります。3つのツールはそれぞれ異なる目的を持っており、使い分けることが支援の質を高めます。
| ツール名 | 主な目的 | 何を図示するか |
|---|---|---|
| ファミリーマップ | 家族内の関係性の質を把握する | 家族間の情緒的つながり・力関係・コミュニケーション |
| ジェノグラム | 家族の客観的な構成を記録する | 世代間の家族構成・婚姻状況・生死・同居状況 |
| エコマップ | 家族と外部資源の関係を把握する | 家族と地域・機関・支援者とのつながりの強さ |
支援対象者の家族構成を整理したいときはジェノグラム、地域の社会資源との関係を把握したいときはエコマップ、家族内のコミュニケーション状態や関係の質を評価したいときはファミリーマップを使います。3つを組み合わせて使うケースも実務では多く見られます。
どんな場面で使われるのか
- 児童相談所・家庭支援:虐待の有無や家族内の力関係を把握するアセスメントとして使用する
- 保育現場:子どもを取り巻く家族関係を理解し、適切な保育・家庭支援を行うために使用する
- 介護・ケアマネジメント:要介護者を支える家族の関係性と介護負担の分配状況を把握するために使用する
- 社会福祉士・精神保健福祉士の実習:アセスメントツールとして実習中に作成を求められる場面が多い
ファミリーマップの基本記号一覧
ファミリーマップには「人物を表す記号」と「関係性を表す線」の2種類があります。この2つを正しく使い分けることが、読み手に伝わるファミリーマップを描くうえで最も重要なポイントです。
人物を表す記号
| 記号 | 意味 | 補足 |
|---|---|---|
| □(四角) | 男性 | — |
| ○(丸) | 女性 | — |
| 二重□ / 二重○ | 対象者本人(支援の対象) | 他の人物より太い線で描く |
| □や○に×または塗りつぶし | 死亡した人物 | 記号内に斜線を入れる方法もある |
| △(三角) | 性別不明・不詳 | 機関によっては使用しない場合もある |
記号の中に年齢を記入するのが一般的です。名前を記入する場合は記号の外側(下や横)に書き添えます。記号の大きさは統一し、階層ごとに水平に並べると読みやすい図になります。
関係性を表す線の種類
ファミリーマップの核心は、この「関係性の線」にあります。ジェノグラムが婚姻・血縁などの事実関係を線で結ぶのに対し、ファミリーマップは関係の「質・感情・力関係」を線の種類で表現します。
| 線の種類 | 意味 | 使用例 |
|---|---|---|
| 太い実線(または二重線) | 非常に強い・親密な関係、または密着・過干渉 | 共依存・過干渉な親子関係 |
| 普通の実線 | 良好・安定した関係 | 一般的な良好な家族関係 |
| 点線(破線) | 疎遠・希薄な関係 | ほとんど連絡がない関係 |
| ギザギザ線(波状線) | 対立・葛藤・険悪な関係 | 夫婦不和・親子間の長期的な対立 |
| 矢印付きの線 | 一方向の影響・支配・暴力 | DVや虐待の方向性を示す |
現場の指導者・評価者が見るポイント
- 点線と実線の使い分けが適切かどうか(疎遠な関係を実線で描いてしまうミスが頻繁に起きる)
- ギザギザ線と矢印の使い分けができているか(「対立」と「暴力・支配」は区別して描く)
- 同居範囲が点線の楕円で正しく囲まれているか
- 関係性の線が「観察・情報に基づく事実」として描かれているか(主観的推測での記入は減点対象)
ファミリーマップの書き方・5つのステップ
実際にファミリーマップを描く手順を5つのステップで解説します。最初から完璧に描こうとせず、まず鉛筆で下書きしてから清書する方法が現場でも推奨されています。
- 対象者を中央に配置する:支援の対象となる本人を用紙の中央やや下寄りに描きます。本人は二重の記号(二重丸または二重四角)で表します。
- 家族メンバーを配置する:親は本人の上、子どもは下、配偶者は横に並べます。兄弟姉妹は同じ段の左右に、年長者を左から順に配置するのが一般的なルールです。
- 基本情報を記入する:各人物の記号内に年齢を書き込みます。名前や職業など追加情報は記号の外側に記載します。
- 関係性の線を引く:家族メンバー間を、関係の質に応じた線で結びます。面接・観察から把握した情報をもとに、疎遠・葛藤・密着などを線の種類で表現します。
- 同居範囲を囲む:現在同じ家に住んでいるメンバー全員を、大きな点線の楕円または四角で囲みます。
良い書き方のポイント
アセスメント面接が終わったら、記憶が鮮明なうちに下書きを描きます。記号の大きさや間隔を一定に揃えると、後から読み返したとき・他のスタッフが引き継いだときにも情報が伝わりやすくなります。
NG例:よくある書き方ミス
「仲が悪いとは聞いたが、はっきり確認できていないので普通の実線を引いた」という対応は誤りです。情報が不確かな場合は線を引かず、余白に「情報収集中」と添え書きするのが正しい方法です。推測で線を引くと、次の支援者が誤った情報を引き継ぐリスクが生まれます。
記入例で確認するファミリーマップの実際
基本的な核家族の記入例
次のようなケースを例として、ファミリーマップを描くとどうなるかを確認します。
ケース設定
父(45歳)・母(42歳)・長女(17歳、支援対象)・長男(12歳)の4人家族。両親は長年不仲で夫婦間の会話がほぼない状態。母と長女は比較的良好な関係。父と長女はほとんど交流がなく疎遠。長女と長男は普通の兄妹関係。全員が同居。
このケースをファミリーマップで表現すると、以下のような構成になります。
- 父(□45)と母(○42)を上段に横並びに配置し、夫婦間をギザギザ線で結ぶ
- 長女(二重○17)を中段中央、長男(○12)を長女の右側に配置する
- 母と長女を普通の実線で結ぶ(良好な関係)
- 父と長女を点線で結ぶ(疎遠な関係)
- 長女と長男を普通の実線で結ぶ
- 4人全員を大きな点線の楕円で囲む(同居の表示)
複雑なケース(離婚・再婚・暴力)への対応
離婚・再婚・DV・虐待など複雑な家族状況を描く場合は、以下のルールを参照してください。
| 状況 | 描き方のポイント |
|---|---|
| 離婚している | 元配偶者も記号で記載し、婚姻線に二重の斜め線を入れる。別居の場合は同居の楕円の外に配置する |
| 再婚している | 現在の配偶者と婚姻関係の実線で結び、前配偶者との間の子どもは両者に線でつなぐ |
| 暴力・虐待がある | 矢印付きのギザギザ線を使い、矢印の方向が暴力の向かう方向を示す |
| 同居範囲が複数ある | 別の楕円を複数描き、それぞれの居住場所を示す |
複雑な家族関係の場合、1枚の図に無理に収めようとすると情報が詰め込まれすぎて読みにくくなります。必要に応じてページを分けるか、補足メモを添えることを検討してください。
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保育現場での使い方
保育所や認定こども園では、特別な配慮が必要な子どもの家庭状況を把握するためにファミリーマップを活用します。子どもの行動の背景にある家族の問題を可視化することで、どのような支援が必要かを保育チームで共有しやすくなります。
- 保護者との面談内容を図に落とし込み、記録として残す
- 担当保育士が変わっても家族の状況が引き継げるよう、情報を整理する
- 要保護児童対策地域協議会(要対協)でのケース共有資料として活用する
介護・ケアマネジメントでの使い方
ケアマネジャーや介護福祉士は、要介護者を取り巻く家族の関係性を把握するためにファミリーマップを活用します。誰が主な介護者で、家族間の介護負担がどう分散しているか、介護者同士の関係がどうかを視覚化することで、介護崩壊を防ぐための早期介入ポイントを特定できます。
別居している家族との関係が疎遠(点線)になっている場合は、将来の介護力不足につながるリスクシグナルとして捉え、早めに支援計画に反映させることが必要です。ファミリーマップを定期的に更新し、家族関係の変化を記録として残す習慣をつけると、引き継ぎの精度が高まります。
社会福祉士・精神保健福祉士の実習・試験との関連
社会福祉士や精神保健福祉士の実習カリキュラムでは、ファミリーマップ・ジェノグラム・エコマップの作成がアセスメントの基礎技術として位置づけられています。実習中に指導者から作成を求められる場面も多く、国家試験でもマッピング技法に関する出題が見られます。
試験・実習で問われるポイント
- ファミリーマップ・ジェノグラム・エコマップの目的の違いを正確に説明できるか
- 基本記号の意味を正確に覚え、適切な線の種類を使えるか
- 収集した情報をもとに、根拠のある図を描けるか(主観・推測の混入がないか)
ファミリーマップを書くときの注意点
ファミリーマップは「正確な情報」を基に描くことが大前提です。見栄えの良い図を描くことより、根拠のある情報のみを記録することを優先してください。
- 推測・印象で線を引かない:「なんとなく仲が悪そう」という印象だけでギザギザ線を使うのは危険です。面接・観察などで確認できた情報のみを使います。
- 情報の更新を欠かさない:家族関係は時間とともに変化します。定期的に見直し、現状に合った図に更新することが必要です。
- 個人情報の取り扱いに注意する:ファミリーマップには敏感な個人情報が含まれます。紙媒体での保管場所・デジタル媒体でのアクセス権限など、情報管理ルールに従って取り扱います。
- 目的に合ったツールを選ぶ:家族構成を整理したいだけならジェノグラム、社会資源とのつながりを把握したいならエコマップを使います。ファミリーマップが本当に必要な場面かどうかを事前に確認します。
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- ファミリーマップは家族内の「関係性の質」を可視化するソーシャルワークのアセスメントツール
- ジェノグラムは家族構成の事実を、エコマップは社会資源とのつながりを図示するもので目的が異なる
- 人物記号は□(男性)・○(女性)・二重記号(対象者)を基本とし、関係の質を線の種類(実線・点線・ギザギザ線など)で表現する
- 書き方は「対象者の配置→家族の配置→基本情報記入→関係性の線→同居範囲の囲み」の5ステップ
- 推測で線を引かず、面接・観察で確認した情報のみを記録することが最大の原則
初めてファミリーマップを描く場合は、シンプルな核家族のケースから練習し、複雑なケースへと段階的に応用していきます。記号の意味と線の使い分けを押さえることで、支援の精度は大きく変わります。
ファミリーマップに関するよくある質問
- ファミリーマップとジェノグラムはどちらを使えばいいですか?
-
目的によって使い分けます。誰と誰が婚姻関係にあるか、何人兄弟かなど「家族の客観的な構成」を整理したい場合はジェノグラムを使います。家族間のコミュニケーションが良好かどうか、誰と誰が対立しているかなど「関係性の質や感情的なつながり」を把握したい場合はファミリーマップを選びます。支援の目的に合わせて2つを組み合わせて使うことも実務では多くあります。
- ファミリーマップの記号は統一されていますか?
-
基本的な記号(男性=□、女性=○、対象者=二重記号)は多くの機関・教科書で共通していますが、関係性を表す線の種類については機関や指導者によって若干の違いがある場合があります。実習先や職場のルールに合わせて使用し、凡例(記号の説明一覧)を図の余白に書き添えておくと、読み手に伝わりやすくなります。
- ファミリーマップを作成できるツールやソフトはありますか?
-
無料で使えるツールとして、LucidchartやDraw.ioなどの図形作成ツールがあります。いずれも図形・線・テキストを自由に配置できるため、ファミリーマップの作成に応用できます。ただし、紙に手書きで描く方法が実習・試験では基本とされるケースが多いため、デジタルツールは記録の清書や他職種との共有に活用するのが現実的です。
- ファミリーマップは社会福祉士試験に出題されますか?
-
社会福祉士国家試験では、ソーシャルワークのアセスメントツールに関する問題が「ソーシャルワークの理論と方法」科目を中心に出題されます。ジェノグラム・エコマップ・ファミリーマップの違いや目的を正確に理解しておくことが求められます。各ツールの定義と使い分けを整理して学習することで、関連問題に対応しやすくなります。


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