中退を履歴書に書かないこと自体を罰する法律はありません。ただし、中退を隠した履歴書は「経歴詐称」として懲戒解雇の理由になり得て、最高裁で解雇が維持された例もあります。この記事では、刑法と労働契約の両面から「違法かどうか」の線引きを整理し、バレるタイミング、Indeedなどのweb履歴書での入力、中退理由の例文まで採用担当者の視点でまとめます。
中退を履歴書に書かないのは法律違反?【結論】
結論:罰する法律はないが、会社から処分を受けるリスクはある
「法律違反か」という問いには、刑事上の罪と、会社との契約上の責任を分けて考えると答えがはっきりします。
| 観点 | 中退を書かなかった場合 |
|---|---|
| 刑事上の罪 | 自分の名前で書いた履歴書の内容が事実と違うだけでは、私文書偽造罪は成立しないと解説されています |
| 会社との労働契約 | 就業規則の「経歴詐称」にあたれば、内定取り消し・懲戒処分・懲戒解雇の対象になり得ます |
| 選考・職場での評価 | 発覚した時点で「事実を隠す人」と見られ、信頼の回復に時間がかかります |
つまり「警察沙汰になるか」でいえば答えはNOですが、「書かなくても問題ない」という意味ではありません。仕事と収入を失うリスクは、刑事罰がなくても十分に残ります。
中退を正しく書いた学歴欄の記載例
中退は「入学」の次の行に、学校名・学部学科名と「中途退学」を書きます。「中退」「退学」と略さないのが基本のルールです。
良い書き方(大学中退の場合)
令和〇年 3月 〇〇県立△△高等学校 普通科 卒業
令和〇年 4月 □□大学 経済学部 経済学科 入学
令和〇年 9月 □□大学 経済学部 経済学科 中途退学(家庭の経済的事情により)
NG例
令和〇年 3月 〇〇県立△△高等学校 普通科 卒業
(大学の入学・中退の行をまるごと削除)
大学在籍の事実を消すと、学歴を偽った履歴書になります。高校卒業後の数年間が空白になり、面接で必ず質問される原因にもなります。
高校中退や専門学校中退でも書き方は同じです。中退理由は必須ではないため、書きにくい場合は「中途退学」だけでも問題ありません。学歴欄の細かいルールは厚生労働省の様式に沿った履歴書テンプレートで実際の欄を見ながら確認すると迷いません。

中退を書かないと「経歴詐称」になる法的な理由
刑法:自分名義の履歴書の虚偽記載は私文書偽造罪にならない
私文書偽造罪は、他人の名義をかたって文書を作ることを罰する犯罪です。自分の名前で書いた履歴書の学歴を偽るのは「無形偽造」と呼ばれ、私文書偽造罪は成立しないと弁護士の解説でも説明されています。
一方で、次の行為は話がまったく別です。
- 卒業証明書や卒業証書を自分で作り変えて提出する
- 他人の名前や架空の人物名義で履歴書を作る
これらは文書偽造の罪に問われる可能性がある行為です。「書かない」だけで済んでいた問題が、証明書を求められたときにごまかそうとして犯罪に変わるという流れは避けてください。
労働契約:応募者には真実を伝える義務がある
刑事罰がなくても、会社との関係では責任が生じます。裁判例では、雇用契約を結ぶ際に労働力の評価に関わる事項の申告を求められた労働者は、信義則上、真実を告知する義務を負うと判断されています(メッセ事件・東京地判平成22年11月10日)。
履歴書の学歴欄は、まさに会社が申告を求めている事項です。多くの会社の就業規則には「重要な経歴を偽って採用された場合」を懲戒事由とする規定があり、これに該当すると判断されれば処分の対象になります。
判例:大学中退を隠して「高卒」と書いた炭研精工事件
「書かない」タイプの経歴詐称が争われた代表的な裁判が、炭研精工事件(最高裁第一小法廷・平成3年9月19日判決)です。
炭研精工事件の概要
- 会社は中卒・高卒者を対象にプレス工・旋盤工を募集していた
- 採用された社員は大学に入学後、除籍により中退していたが、履歴書には最終学歴を高校卒業と記載し、大学中退の事実を書いていなかった
- あわせて、刑事裁判の途中で保釈中だったにもかかわらず「賞罰なし」と記載していた
- 会社の懲戒解雇は有効とされ、重大な経歴詐称による懲戒解雇の代表的な裁判例として扱われている
この事件は賞罰欄の虚偽も重なったケースであり、中退を書かなかった人が必ず解雇されるわけではありません。ただ、学歴を「高く」偽る場合だけでなく、中退を隠して「低く」見せる場合も経歴詐称になり得ることを示した例として知っておく価値があります。
採用担当者はここを見ている
- 処分の判断で問われるのは「真実を知っていたら採用したか」。中退の事実そのものより、隠したことが信頼関係を壊したと受け止められる
- 中退を正直に書いた応募者を、中退だけを理由に落とす会社ばかりではない。むしろ空白期間の説明がつくほうが安心して読める
※処分が有効かどうかは、就業規則の内容や詐称の程度など個別の事情で判断が変わります。すでにトラブルになっている場合は、弁護士や各都道府県労働局の総合労働相談コーナーへ相談してください。
「履歴書に中退は書かなくていい」は本当?知恵袋でよく見る3つの説
Q&Aサイトや掲示板では「中退は書かなくていい」という回答も見かけます。よく見かける3つの説を、実際のリスクと並べて整理しました。
| よく見る説 | 実際のところ |
|---|---|
| 「最終学歴だけ書けばいい」 | 最終学歴は「卒業した中で最も高い学歴」を指す言葉で、途中の在籍歴を消してよいという意味ではありません |
| 「省略は嘘じゃないから大丈夫」 | 炭研精工事件は、大学中退を「書かなかった」ケースです。省略でも経歴詐称と評価され得ます |
| 「書かなくてもバレない」 | 卒業証明書の提出や面接での質問で発覚するケースがあります(次の見出しで解説) |
「書かなくていい」と答えている人の多くは、採用された後に起きることまで責任を持って回答しているわけではありません。リスクを負うのは回答者ではなく、履歴書を出すあなた自身です。
省略してよい学歴と、省略してはいけない学歴
学歴欄の省略がすべてNGというわけではありません。線引きは「省略しても経歴の事実が変わらないか」です。
省略の可否
- 省略してよい:小学校の入学・卒業、転職時の中学校入学など、義務教育の一部(高校入学から書いても問題なし)
- 省略してはいけない:大学・短大・専門学校・高校の中退、在籍していた学校そのもの

中退を履歴書に書かずに出すとバレるタイミング
選考中・内定後の証明書提出
もっとも多いのが書類による発覚です。内定後や入社手続きのタイミングで、最終学歴の卒業証明書や成績証明書の提出を求める会社があります。
- 大学の成績証明書を求められ、在籍していた事実が会社に伝わる
- 「高卒」と書いていたのに、別の書類から大学在籍がわかる
- 同じ学校の出身者が社内にいて、雑談から在籍歴が知られる
面接での深掘り
中退の行を消すと、高校卒業から最初の就職までの期間が空白になります。面接官はこの空白を高い確率で質問します。その場で「何もしていませんでした」と答えれば嘘を重ねることになり、在籍を明かせば履歴書との食い違いを指摘されます。どちらに転んでも、最初から書いておいた場合より印象は悪くなります。
すでに中退を書かずに提出してしまった場合
選考中であれば、早めに自分から訂正するのが傷の浅い対応です。
- 正しい学歴欄で履歴書を作り直す
- 採用担当者へメールか電話で「学歴欄に記載漏れがあった」と連絡する
- 訂正版の履歴書を送り、面接では中退理由を簡潔に説明できるよう準備する
訂正連絡のメール例文
件名:履歴書の記載内容訂正のお願い(氏名)
株式会社〇〇 採用ご担当者様
先日提出いたしました履歴書の学歴欄に記載漏れがございました。正しくは、高等学校卒業後に□□大学経済学部へ入学し、令和〇年9月に中途退学しております。訂正した履歴書を添付いたします。ご確認のお手数をおかけし、申し訳ございません。
選考中に自分から訂正した事実は、後から発覚した場合とは受け止められ方がまったく違います。不採用になる可能性はゼロではありませんが、入社後に発覚して職を失うよりも損失はずっと小さく済みます。
Indeedなどのweb履歴書で中退を入力するときの注意点
Indeedのプロフィール履歴書や求人サイトの応募フォームでも、学歴の扱いは紙の履歴書と変わりません。入力画面の項目は学校名・学部・在籍期間などに分かれていることが多く、「中退」を選ぶ欄が見当たらないこともあります。
- 在籍期間は実際の退学年月で入れる:卒業予定だった年月を入れると「卒業した」と読まれる
- 中退の旨を明記する:学部名や備考欄、自己PR欄などに「中途退学」と書き添える
- アップロードする履歴書ファイルと内容をそろえる:プロフィールとファイルで学歴が食い違うと、それだけで不信感を持たれる
入力欄の構成はサービス側の仕様変更で変わることがあるため、迷ったら各サービスのヘルプページで最新の入力方法を確認してください。紙やPDFで提出する場合は、転職用の履歴書テンプレートを使うと学歴欄の行数に余裕があり、中退の行も無理なく収まります。
アルバイト応募でも学歴を偽ってよい理由にはなりません。アルバイト用の履歴書テンプレートなら学歴欄がコンパクトなので、中退を書いても欄が埋まりすぎません。
中退を履歴書に書くときの中退理由の書き方と例文
中退を書くことに抵抗がある人の多くは、「中退」の2文字だけが一人歩きするのを心配しています。理由を一言添えれば、採用担当者が抱く疑問を先回りして解消できます。
やむを得ない理由の場合(経済的事情・家庭の事情・病気)
良い書き方
□□大学 経済学部 経済学科 中途退学(家庭の経済的事情により)
□□大学 文学部 中途退学(病気療養のため 現在は完治し就業に支障なし)
病気が理由の場合は、「現在は就業に支障がない」ことまで書くと、採用担当者が気にする「今は働けるのか」という疑問に答えられます。
前向きな理由の場合(進路変更・就職)
良い書き方
△△専門学校 情報処理科 中途退学(IT企業への就職のため)
□□大学 工学部 中途退学(調理師を目指し進路を変更するため)
NG例
□□大学 工学部 中退(勉強についていけず、やる気がなくなったため)
「中退」の略記と、ネガティブな感情をそのまま書いた理由がNGです。理由が書きにくい場合は「中途退学」だけにとどめ、面接で口頭説明します。
採用担当者はここを見ている
- 中退の事実より「その後どう動いたか」。中退後のアルバイト・資格取得・就職など、空白を埋める行動が職歴欄や自己PRにあるか
- 同じ理由で仕事も途中で辞めないか。面接では「中退の経験から何を学び、今の仕事選びにどう生きているか」を一言で話せると評価が変わる
パートとして応募する場合も書き方は同じです。パート用の履歴書テンプレートを使えば、学歴欄と本人希望欄のバランスを取りやすくなります。

中退の書き方が決まっても、手が止まったまま応募を先延ばしにしている人は少なくありません。学歴欄の入力で迷う時間を減らしたいなら、項目に沿って入力するだけで履歴書が仕上がる作成ツールを使うのが近道です。
まとめ
- 罰する法律はない:自分名義の履歴書で中退を書かなくても、私文書偽造罪にはならないと解説されている
- 会社との関係では処分の対象になり得る:大学中退を隠して高卒と書いた社員の懲戒解雇が有効とされた最高裁判例がある
- 「書かなくていい」説は省略と詐称の区別がついていない:義務教育の省略はOK、中退の省略はNG
- 書かずに出したなら選考中に訂正する:入社後に発覚するより損失は小さい
- web履歴書でも同じ:在籍期間は退学年月で入力し、中途退学の旨を明記する
中退を正直に書いた履歴書は、入社後に怯えずに働ける履歴書でもあります。
中退を履歴書に書かないことに関するよくある質問
- 中退を履歴書に書かないと逮捕されますか?
-
自分の名前で書いた履歴書に中退を書かなかっただけで、私文書偽造罪が成立することはないと解説されています。ただし、卒業証明書を作り変えたり他人名義の書類を使ったりすれば、文書偽造の罪に問われる可能性があります。また、刑事罰とは別に、会社の就業規則に基づく懲戒処分の対象にはなり得ます。
- 入学してすぐに中退した場合も書く必要がありますか?
-
在籍期間が短くても、入学と中途退学の事実は記載してください。在籍期間の長さで経歴詐称かどうかが変わるわけではなく、成績証明書などの書類から在籍が判明する可能性もあります。
- アルバイトの履歴書なら中退を書かなくてもいいですか?
-
雇用形態に関係なく、学歴を偽ってよい理由にはなりません。アルバイトでも学歴欄がある以上、中退は「中途退学」と記載してください。理由は省略してもかまいません。
- 中退した学校の後に別の学校を卒業した場合、中退歴は消してもいいですか?
-
消さずに時系列で記載してください。たとえば大学を中退してから専門学校を卒業した場合、最終学歴は専門学校卒業になりますが、大学の入学・中途退学の行も残します。中退後に別の学校を卒業している経歴は、採用担当者にとって「次の目標に向けて行動した人」と読める材料になります。

